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様々な幾何学的フラストレート磁性体におけるスピン-格子結合の効果の理論研究

 三角格子やカゴメ格子上のハイゼンベルグ反強磁性体に代表される幾何学的フラストレート磁性体では、最近接交換相互作用が競合するために基底状態が巨視的に縮退します。しかし、熱力学第三法則から絶対零度ではエントロピーが零になるので、現実の系では次近接交換相互作用や量子揺らぎ、スピン-格子結合などの微小な摂動が縮退を解くのに重要な働きをするようになります。ここでのスピン-格子結合とは、「スピン自由度と局所格子歪みの結合」のことを指します。パイロクロア格子系における低温での構造相転移や1/2磁化プラトーが、スピン-格子結合の寄与を微視的に取り扱ったPenc等の理論 [Phys. Rev. Lett. 93, 197203 (2004)] により見事に再現されたのを発端に、スピン状態の縮退を解くメカニズムとしてスピン・ヤーン=テラー効果の重要性が広く認識されるようになりました。さらに、スピン-格子結合に由来する有効的な第二次、第三次近接相互作用を取り入れた拡張モデル (site phonon model) がBergman等によって考案され [Phys. Rev. B 74, 134409 (2006)]、磁気長距離秩序の記述も可能になりました。我々は、site phonon modelを様々な結晶格子系に適用し、古典モンテカルロシミュレーションによってスピン-格子結合が基底状態に及ぼす効果を調べました。

 カゴメ格子の場合では、スピン-格子結合は零磁場・低温において長距離秩序を引き起こさないことが分かりました。一方で磁場印加下では、有限のスピン-格子結合が存在すれば√3×√3の超構造を持つ2-up-1-down状態が安定化し、スピン-格子結合を強くしていくとさらに3×3の超構造を持つ5-up-4-down状態が現れることが明らかになりました[A]。これらの磁気構造の発現は、それぞれ1/3磁化プラトーと1/9磁化プラトーを伴います。このような磁化プラトーは最近実験的にも報告されており、我々の理論でよく説明できそうです。

 ブリージングパイロクロア格子におけるスピン-格子結合の寄与も詳細に調べました。通常のパイロクロア格子の場合では、2-up-2-downもしくは3-up-1-down状態のみをベースにした磁気構造が現れます。ここで、ブリージング異方性を導入していく (すなわちJ'/Jを1から小さくしていく) と、2-up-2-downや3-up-1-downなどが混ざった四面体ベースの超構造が発現することが明らかになりました[B]。実際にモデル物質であるLiGaCr4O8の磁化過程において、1/2磁化プラトー直下に磁気超構造の発現を示唆する2段のメタ磁性転移が観測されています[C]。

関連論文

[A] M. Gen and H. Suwa, Phys. Rev. B 105, 174424 (2022). (原著論文[13])
[B] K. Aoyama, M. Gen et al., Phys. Rev. B 104, 184411 (2021). (原著論文[8])
[C] M. Gen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 120, e2302756120 (2023). (原著論文[22])
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