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正方格子遍歴磁性体における磁気スキルミオン相の回転対称性の破れと直方晶歪み

 バルク物質における磁気スキルミオン格子相は、三角格子や正方格子といった高対称な形状で発現するというのが従来の認識でした。しかし近年、回転対称性が自発的に破れたスキルミオン格子相が、遍歴磁性体EuAl4 (空間群I4/mmm) において発見されました。EuAl4では、2価のEuイオンが持つ局在スピン間のRKKY相互作用が磁性を支配し、図に示すように非常に複雑な磁気相図を示します。ここで、零磁場下でのメロン-アンチメロン格子相 (VI相) からスパイラル相 (V相) への転移は、正方晶-直方晶の構造相転移を伴います。また、c軸方向に磁場を印加すると、正方格子スキルミオン相 (III相) に加えて、菱形格子スキルミオン相 (II相) や菱形格子ボルテックス格子相 (IV相) といった低対称の多重Q相が発現します。これらのスピンテクスチャの回転対称性の破れは、スピン系と格子自由度の強い結合に起因することが示唆されます。

 そこで、我々はEuAl4磁場誘起相における直方晶歪みの変化を調べました[A]。零磁場・5 Kにおけるスパイラル相 (I相) では、ab面内で約0.2%にも及ぶ直方晶歪みが生じます。磁場を印加していくと、直方晶歪みの大きさは磁気転移が起きる度に不連続に変化しながら飽和磁気相に向かって単調に小さくなっていくことが、ファイバー・ブラッグ・グレーティング (FBG) 法を用いた精密磁歪測定によって明らかになりました。さらに、共鳴X線散乱実験によって主反射と磁気反射を同時に観測することで、直方晶歪みと磁気変調の対応関係も決定しました。交換歪みのメカニズムを考察することで、本実験結果から最近接スピン間の磁気相互作用の距離依存性に関する情報を引き出すことができます。菱形格子スキルミオン相の安定性の制御を様々な手段で検証することが今後の研究課題です (科研費若手の研究テーマ)。

関連論文

[A] M. Gen et al., Phys. Rev. B 107, L020410 (2023). (原著論文[19])
RhombicSkyrmion