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アキシオン絶縁体候補物質における特異な2重Qらせん磁気秩序の再検討

 2価のEuイオンを含むZintl相化合物は、電子のバンド構造が磁性と強い相関を持つことから、特異な輸送現象や巨大磁気抵抗発現の舞台として近年注目されています。その代表の一つが、EuIn2As2です。本物質はEuの三角格子が層状構造を形成し(空間群P63/mmc)、TN=17 K以下で磁気転移を起こして容易面型の磁気異方性を示します。第一原理計算によって、面間反強磁性秩序に伴うアキシオン絶縁状態の実現が提案されており、磁気構造の決定は重要な課題です。理論提案の後に、中性子および共鳴X線散乱実験が別グループによって行われ、基底状態は反強磁性ではなく磁気変調ベクトルQ1 = (0,0,1/3)とQ2 = (0,0,1)の重ね合わせで特徴づけられる2重Qの“broken helix”構造であると結論づけられました。しかし、変調周期や磁気構造の対称性に関して先行研究の解釈には再検討の余地がありました。

 そこで、我々のグループでも共鳴X線散乱実験を詳細に行いました。2つの単結晶を用意して磁気ピークを観測したところ、Q1の磁気変調波数q1zは1/3からずれた値となっており、q1z = 0.25〜0.29と試料依存性があることが分かりました。これらの試料の結晶構造解析を行ったところ、どちらも約1%のEu欠損があり、欠損の量はq1zの値が大きい試料の方が多いことが分かりました。以上の結果は、Q1の不整合磁気変調の起源がEu欠損により導入されるホールキャリアが媒介するRKKY相互作用であることを強く示唆しています。したがって、EuIn2As2においてアキシオン状態を実現させるためにはフェルミ準位をバンドギャップ中へシフトさせてQ1の磁気変調を抑制する必要がありますが、元素置換により電子ドープするアプローチが有効かもしれません。さらに、面内磁場印加による磁気構造変化を調べたところ、Hc = 0.2 Tでのスピンフロップ転移後の高磁場相では2重Qのfan構造に変化していることが分かりました。この相では、2重Qの証拠である高調波成分Q2Q1に加えてQ1の3倍波 (3Q1) に相当する磁気ピークが観測されており、通常のfan構造とは異なる独特のスピン配置の発現が示唆されます。我々はこの高磁場相における2重Q磁気構造を“broken fan”と命名しました。

関連論文

[A] M. Gen et al., arXiv:2403.03022
BrokenHelix