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超強磁場領域におけるルビーの発光スペクトルの異常ゼーマン効果

 身近な宝石であるルビーでは、アルミナ (Al2O3) 中にごく少量のCr3+イオンが含まれています。ルビーの吸収スペクトルは波長694 nm付近 (エネルギー1.79 eVに対応) にR線と呼ばれるシャープなピークが存在することから、古くから分光学的研究が盛んに行われており、配位子場理論の構築や固体レーザーへの応用などに多大な貢献を果たしてきました。

 このR線は、スピン-軌道相互作用と三回対称場によってわずかに分裂した2つの励起二重項2Eから基底四重項4A2へのスピン禁制遷移に対応します。ルビーに磁場を印加すると、2つの励起準位が混成することによる異常ゼーマン効果、そしてさらなる強磁場下ではゼーマン分裂が線形な磁場依存性に漸近するパッシェン-バック効果が観測されることが知られていました。本研究では、230 Tまでの超強磁場領域におけるR線のゼーマン分裂を初めて観測し、100 T以上で新たな非線形な振る舞いを発見しました。この観測結果は、第二励起状態2T1が混成することで結晶場中の2E準位において消失していた軌道成分が顕になったためだと説明できます。この過程でエネルギー準位の良い量子数が再構成されることから、これは結晶場中におけるパッシェン-バック効果の前兆であると言えます。

関連論文

・M. Gen et al., Phys. Rev. Research 2, 033257 (2020). (原著論文[4])
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