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ブリージングパイロクロア格子磁性体における不整合らせん磁気構造の発見

 大小の正四面体内の最近接ボンドが異なる強さの磁気相互作用で特徴づけられるブリージングパイロクロア格子磁性体は、新規基底状態探索の有力な舞台です。我々は、そのモデル物質であるAサイト秩序型のクロムスピネル化合物CuAlCr4S8とCuGaCr4S8の多結晶試料の合成に成功し、多彩な温度-磁場相図を示すことを見出しました[A]。しかし、相転移に伴う磁気構造や結晶構造の変化に関する微視的な研究はまだ進んでいませんでした。

 CuAlCr4S8とCuGaCr4S8は、室温では空間群F-43mの立方晶構造をとります。温度を下げると、それぞれTN = 21 K、31 Kで磁気転移を起こし、ヒステリシスを伴って反強磁性的な磁化率の振る舞いを示します。そのため、クロムスピネル系でよく見られるスピン-格子結合由来の磁気転移であることが示唆され、構造相転移を伴うことが期待されます。そこで、低温下で粉末X線回折実験を行ったところ、両物質ともTN以下でX線回折ピークの分裂が観測され、低温相では空間群Imm2の直方晶構造となることが分かりました。この構造ではc軸方向に極性が存在するために、自発電気分極が許容されます。また、粉末中性子回折実験を行ったところ、両物質に共通して磁気伝搬ベクトルQ = (qIC, 0.5, 0)で特徴づけられる不整合らせん磁気変調の発現が明らかになりました[B]。qICの値は、CuAlCr4S8で0.39、CuGaCr4S8で0.31となっており、変調周期が比較的短いことからボンドフラストレーションの寄与が重要であると考えられます。磁気構造解析から、らせん面が磁気伝搬ベクトル方向とc軸を含むサイクロイド型の磁気構造が有力候補として挙げられます。本物質におけるスピン、電荷、格子間の交差相関応答の検証は興味深い研究課題であり、単結晶育成の実現が待ち望まれます。

関連論文

[A] M. Gen et al., Phys. Rev. Mater. 7, 104404 (2023). (原著論文[24])
[B] M. Gen et al., J. Phys. Soc. Jpn. 93, 104602 (2024). (原著論文[29])
CuMCr4S8_cycloid